コンマ1mmでテーラードの衿が変わる、工業用パターンの秘密
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パターン(型紙)は、製図してそのまますぐに使えるわけではありません。
「パターン」は「工業用(工業)パターン」にしないと、縫製できません。
「パターン」から裏地用のパターンを作ったり、見返しのパターンを作ったり、縫い代を付けたりと、実際に縫うことができるようなパターンに変えると「工業用パターン」になります。
なので、「パターン」はファーストパターンと呼ばれたりします。
工業用パターンというのは、縫製のことを理解していないと作ることができません。
縫製の工程が分かっていないといけないし、工場の得手不得手や、使用するミシンの種類によりできることできないことがあったりするからです。
いくらファーストパターンがよくても、工業用パターンの作り方がまずければ、できあがる服が台無しになってしまいます。
軽衣料では縫い代を付けるだけで大丈夫ですが、裏付きのジャケットなんかだと、ファーストパターンから工業用パターンを作るのに、操作しないといけない部分がかなりあります。しかも、パーツもたくさんあって、けっこう大変。
そんな工業用パターンの秘密?をほんの少しですが披露してみます。
先に書きましたが、工業用パターンを作るというのは、縫い代などなにも付いていない、まっさらなパターンから実際に縫うことができるように、下記の操作をするということです。
- 裏地やポケットなど、細かなパーツまですべてのパターンを作る
- 衿やラペルなどの返り線の展開、袖下や股ぐりの裏地のゆとり分量を確保するためのパターン操作をする
- 縫い代を付ける
などなど…ほかにもたくさんあって書き切れません。そして謎の言葉もあるかもしれませんが、お許しください。
1.裏地やポケットなどすべてのパターンを作る、3.縫い代を付けるというのは、ソーイングをされる方ならよくご存じだと思います。
ですが、2.衿やラペルの返り線の展開をする、というのは、なんのこっちゃ??という方も多いかもしれません。
「ラペル」というのが、テーラードジャケットのこの部分です。
「返り線」とは、オレンジ色の部分、ここでひっくり返るよ、という位置。
返り線の部分をアップにするとこうなってます。衿やラペルがひっくり返る部分の線→「返り線」です。
裏側がひっくり返って表側に出るので、まずきれいに返るようなファーストパターンを作ります。けっこう難しいです。
そして、生地の厚み分量などを考慮し、きれいに返るようにファーストパターンを操作して工業用パターンを作ります。
ジャケットなどに使う生地だと、もともとある程度厚みがあるものが多いですし、衿や見返しには芯地を貼ります(ジャケットなどかっちり上げたいものは身頃にも貼ります)ので、生地に厚みが出ます。
衿は表衿、裏衿の2枚の生地が重なってできています(ラペルなら前身頃と前見返し)。2枚いっしょに縫製されます。
さて、2枚いっしょに同じ形のもの(今の話なら表衿と裏衿)を重ねると、当然ぴったり合います。
ですが、衿やラペルのように「返す」となると…
外側が足りない、もしくは内側が余ってきます。外まわりの距離が長くなるので、当然といえば当然です。
しかし、こうなると、衿はきれいに返ってくれません。はね返るようなかんじになります。
なので、工業パターンにするときに、この足りない分を補うようにパターンを操作するのです。
また、衿は下の図のように、首に沿うようカーブを描いています。
ということは…
となります。
パターンの操作の詳細は書きませんが、足りなくなるのは数mm、それを数か所に分けて広げたりたたんだりするので、場合によりコンマ1mm単位の操作になってきます。
パタンナーってとても細かい作業をしているということがわかっていただけると思います。
しかもこれは衿まわりだけの話(ジャケットなどの衿の操作はほかにもあります)、きれいに着やすく上げるためにはほかの部分も細々としなければいけないことがあります。
もちろんデザインや素材によっても変わってきます。
パタンナーの仕事は、こういう細かい部分が大半です。決して華やかな仕事ではありません。
ですが、こういう細かなことが反映されて、きれいな商品が上がってきたとき、たとえ内輪でもきれい!と褒められたとき、本当にうれしいものです。
そしてそのお褒めの言葉がお客様からだったとき、パタンナーやっててよかったなあ、なんてじーんとします。
パタンナーに限らず、仕事とはそういうものですよね。
最後まで読んでいただき、ありがとうごさいました。