私、パタンナーです。

「元」パタンナーの目線から服のことを書いています。

見た目同じ丈でも長さが違うってどういうことだろう

パターンって、切替やダーツを入れて体に沿わせるということをします。

昨今大きなシルエットが多いので、体に沿わせてある服は少ないかもしれませんが、体の線が出るような立体的な服であればあるほど、ダーツ分量が増え、縫う距離も長くなります。

脇体から離れた、ゆったりしたシルエットの服より、ぴったりと体に沿わせたシルエットの服のほうが、脇線にしても後中心線にしても縫う距離が長くなります。

そう、見た目の長さ(丈)が同じなのに、シルエットが変わると長さが変わりますり

どういうことかというと…生地は重力に従って、地面から垂直の方向、下に落ちます。

ですが、体は直線の部分はまずありません。女性の体ならバストが大きく、ウエストで細くなって、またヒップで大きくなります。もちろん男性、子どもの身体でも場所により凸凹があります。ダーツや切替を入れて体の線を出すのは同じです。

パターンを作る(トワルを組む)ために使うボディ(人台)もこのようになっています。女性の体のほうが凹凸の差が大きいので、例にします。

ブラウスやワンピースなどでフィットしたデザインのものだと、ウエストでのダーツ分量は大きくなります。体に沿わせた、フィットしたもののほうが、ルーズなシルエットのものより縫い目の長さが長くなります。見た目の丈は同じなのに。

だから、体から離れたすとんとしたシルエットの着丈と、ぴったりとしたタイトなシルエットの服とでは、見た目の長さは同じでも計測すると微妙に長さが違うのです。

左:体から離れたシルエット、右:ぴったりしたシルエット

上の図で言うと、左のような体から離れたシルエットと右のようなとぴったりしたシルエットの後中心の丈が違うのがお分かりでしょうか。(見た目の)丈としては同じなのですが、青い方が長くなります。言い方を変えると、左の服と同じ丈にしようと思うと、右は長くしないと同じに見えないのです。

 

もうひとつ例を。

スカートは、ウエストラインの脇線のあたりが前後中心に比べ高くなっています。下のパターンのように。

スカートのウエストライン、脇線の長さが前後中心より長い

脇線はヒップ、腰のあたりが張り、ウエストとの差が大きくなります。見た目でもわかりますよね。ウエストからヒップにかけて、正面から見るとけっこうカーブがついています。そのカーブが大きい分、たての距離が必要になります。

ボディも正面から見るとこんなふうにカーブになっている

ボディがあれば見て触って、とするとわかりやすいです。ない場合自分の体を鏡で見て触ってください。個人差が大きいですが、凹凸があって、カーブになっているということはわかると思います。その凹凸が少なく平坦なほど距離が短くなる、というのはおわかりいただけるのではないかと思います。

(ちなみに、上のパターンの前中心と脇、後中心と脇で寸法差を矢印で表していますが、前より後のほうが差があります。つまり、前中心線と後中心線なら、前中心線の位置が高くなります。日本人はお尻のボリュームがあまりない(お尻の位置が低い、扁平)なので、距離が短くなる、と学生の頃教わりました。スポーツなどされていて、お尻がきゅっと上がっていらっしゃる方なら、前後の差が少なくなるかもしれません。

逆に、お腹の出ている方は、前中心線と脇の高さの差がもっと小さく、前後の差が大きくなります。)

必要な距離はよこの方向だけでなく、たての距離も変わってきます。ギャザーを入れるとよこの方向でなくふくらむ分たてにも距離が必要になりますが、同じ理屈です。トワルを組むととてもわかりやすいです。

 

これはどの部分でも同じことが言えます。パンツでも、ワイドパンツよりもスキニーみたいにぴったりしたもののほうが脇線、股下線の長さが長くなります。

パンツもシルエットによって長さが違ってくる

おもしろいと思いません?私だけですかね?

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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生地の裁断方向について。分かっててやるのと分からずにやるのは大違いです。

パタンナーの仕事のひとつに、「生地の裁断の方向と方法を指示する」というものがあります。

サンプル、本生産の仕様書を作る際の仕事のひとつですが、商品の上がり(見た目)に大きく影響を与えるので、とても大事な部分です。ものによりそれだけでかなりの時間がかかることがあります。

今回は生地や柄で違ってくる指示の方法なんかについてを書いてみようと思います。

 

生地には方向があります。まず地の目の方向で、たて、よこ、バイアス(バイヤスということも)とあります。たてというのは生地の耳(端)と平行、よこは耳に対して垂直、バイアスは耳に対して45度の方向の地の目になります。

すべてのパーツのパターンには必ず地の目(矢印)を入れますが、基本的に地の目の矢印は=たて、となります。

それらをふまえて、裁断の方向というのは、服のパーツを差し込んで裁断するか、一方方向のみにするか、一着の中で一方方向に揃える(商品によって方向が変わるのはOK)などがあります。

差し込みは、地の目のたて方向が合っていれば、上下関係なく型紙を配置して裁断しても良いということです。差し込みは生地の用尺(一着にかかるメーター数)がいちばん詰められる裁断の方法です。

一方方向はその名の通り、すべてのパーツを一方方向(上から下、もしくは下から上)に揃えて裁断します。差し込みと逆で、用尺がかかります。

一着の中で方向を同じにする方法は、着内同一方向裁断とか、着別一方方向とか、会社によって?言い方が違いますが、要するに一着の服の中では一方方向になるように(一着の中で差し込みにならないように)裁断、縫製するということです。

通常、本生産で裁断する場合は2人取り以上で裁断することがほとんどだと思われるので、着内同一方向裁断では、差し込みに近い用尺になってくると思う。実際に詳しく工場さんに聞いたことがないですが…。

裁断の方向がどのような条件で変わってくるのか、以下に簡単に書いてみます。

 

差し込み

無地、または柄物でも上下の方向のない、またはわかりにくいもの

 

一方方向裁断

柄物(ジャカードなどの織り柄、先染めの柄、プリント物)などで、上下ひっくり返すと柄の出方が変わってしまうもの。または、毛足のある素材など

 

着別一方方向裁断

上下ひっくり返すと柄が変わってしまうが、一方方向裁断にしなければいけないほど柄が目立たないもの、一方方向裁断にすると取りが悪すぎるものなど

 

この他にも様々条件はあります。ニットは厳密には上下の方向があります。商品の値段などにより変わる場合もあります。

また、ベルベット、シャギーなど毛足のある素材は一方方向になります。毛並みを揃えて裁断します。差し込むと横のパーツとの見え方がぜんぜん違うので注意。

綾織のものはたて方向の差し込みはできますが、バイアスの場合は注意が必要だし、1WAYストレッチの素材は、たて伸びにしたいかよこ伸びにしたいかで地の目を変えたりします。 

 

次に、柄物はどのようなものが差し込みできるかできないか、具体的に例を挙げると…

左:差し込み可  右:差し込み不可

とこんな感じ。微妙な柄ですいません。

ポイントは上下ひっくり返しても柄が同じになるかどうか、または全く同じにならなくても違和感がないかどうか。

大柄なものやパネル柄などは上下ひっくり返すとぜんぜん違うので、一方方向にしかできない。そういうものは用尺がかかって値段も高くなる、ということです。

 

そしてもうひとつ、柄物は「柄合わせ」をしなくてはなりません。これは差し込みできる柄でも必要(特にチェック柄)。

前後中心や左右の袖、はぎのはいるところで柄がずれないように裁断するとか、どこに柄が来るようにするかなどの指示をすることなのですが、柄合わせはパターンによってできるできないがあったりします。どのパーツもすべてきれいに合わせようと思うと、知識も必要ですが、パターン的に妥協しなくてはいけなくなる部分も出てきます。用尺もさらにかかります。もちろん工場さんの労力が半端ないのでコストが上がります。

安い商品のものではコストが厳しいので、柄の方向はちょっと厄介だったりします。チェックやプリント柄が製品の値段に直結するのは上記の通りなので、本来なら使用する生地の柄を選ぶ(作る)時点で上下のない、差し込みできる柄にするのがよい。

生地の選定やプリント柄を組んだりするのはデザインの領域なので、デザイナーやMDに知識があれば、妥協できる範囲で差し込める生地を選ぶことが多い。 パタンナーも工場さんも楽だし安くできるし、みんながハッピーです。デザイナーさんよろしくお願いします!

 

これらは、服飾の専門学校を出て企画の仕事に携わっていれば当然の知識です。仕事をしていなくても服を作る方にはおなじみのことだと思います。見た目ですぐにわかるところなので、パタンナーとしてもとても気を遣うところであり、工場さんなどにも注意をお願いする部分です。

そういえば以前いた会社で、柄物の多い商品を作っていたとき。パターンは作らないのに本生産の仕様書は作っていたのですが、下記の柄のような、先染めチェックの生地の商品の仕様書作りをしたときのこと。この柄は上下ひっくり返すと違った見え方になるので、基本、一方方向裁断、または着別一方になります。

一方柄の例。同じ柄を上下ひっくり返して並べた図

裁断方法の指示をするのに、サンプル→差し込みでしたが、私は本生産は一方方向裁断で指示、のつもりでした。でも柄合わせに迷って、ほかのパタンナーに相談したら、「(こういうチェックの)柄の方向のこと、考えたことなかった(から、ずっと差し込みにしてた)」と衝撃のお言葉。

…たしかに安価な商品、一方で裁断、柄合わせまでしてたら上代上がってしまうかもしれないけど…パタンナーの知識と商品の値段は関係ありませんよ。

ちなみに先染めのチェック、ストライプ柄なんかは、プリントに比べて表裏がわかりにくいです。表裏も間違えると柄が違ってくるので注意が必要です。

 

注:工場さんの立場としては、サンプルまで差し込みだったのに本生産でいきなり一方裁ちはできないということもあります。当然ですよね。差し込みのコストで合わせているのにいきなり一方裁ちとか、工賃合わなくなりますから。

上記の話は商品の見た目をできるだけよくするように、クレームをできるだけ受けないようになど、パタンナーの立場で商品価値をできるだけ上げるためにすることです。

コストに関わるところはデザイナーやMD、生産と相談してフレキシブルに対応します。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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トワルを組んでパターンを作るのがすべて立体裁断というわけではないと思うのだけれど。

久しぶりにトワルを組んでみました。

自宅にボディがなく、子どもがいるのでシルクピンを使わず、ミシンで粗く縫って着用し、修正しました。ひとりで着て修正るのはとてもたいへん。何度も着たり脱いだり、縫ったりほどいたりしました。

それで思ったことが、これって立体裁断なんだろうか?ということ。違う気がするけれど…。

私は長年パタンナーでしたが、立体裁断という言葉がよく分かりません。

仕事では、ボディを使ってトワルを組んでパターンを作る、というやり方で型紙を作っていたことが多かったです。原型も何もないところから、シーチングを使ってドレーピングでジャケットなんかを組んだこともありますが、必ずしもドレーピング=立体裁断にはならないという気もする…。ボディて人間の体とは違いますし。まず、サンプルでの修正が必要になります。

だいたい、立体裁断などという言葉をほとんど使ったことがありません。少なくとも私の周りで、パタンナーが「これは立体裁断」なんて言ったりするのを聞いたことはありません。

私がはじめて「立体裁断」と関わった(笑)のは、デザイナーさんがOEMの得意先に提案した、「立体裁断を謳った商品」でした。

いやそれ、勝手に立体裁断とか言わんとってくれ、ただただプレッシャーでしかないわ、というのが正直な思いでしたが、やるしかなかったのでもちろんやりました。結果はとてもきれいなものができたし、けっこう売れたのでよかったのですが。

だけどあの商品が立体裁断で作られた商品なのかどうか、自分でもよく分かりません。かなり研究しましたし、時間をかけてトワルも組みましたし、サンプルでのチェックも念入りに、何人もの人に着てもらって、当然自分も着て修正しました。そのとき自分のできる限りのことをしたのは間違いないです(ちなみにそのデザイナーさんはそのときの私のやり方は立体裁断だと言ってました)。

 

もしかしたら世の中では、シーチングやシルクピンを使ってボディに着せ付けて作る、つまりトワルを組んで作る製図の方法を立体裁断だと思われている方が多いかもしれません。

でも、トワルを組んで作られたパターンの服でもひどく平面的だったり、逆にCADの中だけで作ったものがとても着ごこちがよかったり、なんてこともあります。

トワルを組んでボディに着せるだけで修正をしないパタンナーもいます。修正しないのかできないのかは知らないけど。まあ、丈の確認のために組むこともあります。でも普通組んでみるといろいろ直したくなるもんだと思うんだけど。

そんなでも「トワルを組んでいる」のです。これ、立体裁断と言えますかね?

商品になれば、それがトワルを組んで作られたものかそうでないかは見た目では分かりません。でも着てみるとそれがよいパターンかそうでないか、ある程度分かったりします。

トワルを組まないよりは組むほうがよいパターン、服になる確率は高くなりますが、高くなるだけで必ずよいパターンになるわけではありません。

結局は立体か平面かなんてことよりパタンナー個人の能力(あるいはモラルの有無?)かもしれません。

 

なんか上からみたいになってるかもしれません。すいません。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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アームホールと袖の運動量について。パターンは1度引いたら完成ではありません。

アームホールの大きさと袖の運動量には、密接な関係があります。もちろん袖山の高さや袖幅なんかも大きくかかわりますが、アームホール自体の大きさが、腕を上げる動きを妨げたりするのです。

袖の運動量についてや、アームホールと袖との関係については、以前にいくつか書いています。

その中でも触れているのですが、どうして運動量が変わるのか、具体的に書いていこうと思います。

 

アームホールとは、身頃の袖ぐりのことです。袖が付く部分。デザインだけでなく、袖の形状によっても形は変わります(でも身頃をきちんと作り込んでアームホールを決めてから袖を作るほうがうまくいきます)。

袖の運動量は、袖が要だと思われるかもしれませんが、実は身頃のほうに問題があって腕が動かしにくいということがとても多いです。

そして、動かしにくい原因のひとつに、カマ底の位置があります。

カマ底とは、アームホールと脇線が交差するあたりの位置で、前後身頃の脇線を突き合わせて形を見ます。お釜の底の形みたいだからカマ底なのかな?これは合ってるかどうか知りません。

カマ底の位置は、デザイン、バストや袖巾などの商品のサイズ感などによって変わります。バストの小さいほうが高い位置に来るのは、身頃のサイズと連動するからです。なので、アウターよりインナーのほうが、布帛よりカットソーのように伸縮性のあるもののほうが位置は高くなります。そして高いほうが袖が上げやすくなります。

ただ「着用する亅だけであれば、アームホールの大きい、カマ底の位置が低いアームホールのほうが、腕や脇に当たらなくて楽な気がしますが、腕を高く上げたり前後に動かしたりするとカマ底の低いものは動かしにくいです。

たとえば、バスト、肩巾の大きさが同じくらいで、カマ底の位置が違うものがあるとします。矢印がそれぞれのカマ底の部分。

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カマ底が、赤が高く、青が低い位置にある

身頃のパターンを比較するとこんな感じでしょうか。

カマ底の位置が違う身頃の比較

そして袖はこんな感じ。赤に比べて青は、アームホールが大きくなるので袖山が高く、袖巾が広くなります。袖口と袖の長さは同じ。だけど袖山の高さが違うので、袖下の長さが違っています。

袖の比較

腕を下げた状態(しわなどが出ない、無理がない状態)でカマ底~袖口の距離を直線で表すと、下の図のようになります。

腕を下げた状態

そして腕を上げるとこのような状態に。点線は上げることにより必要になった長さ。

腕を上げた状態

カマ底〜袖口の距離の問題ですね。腕を上げると袖口が上がり、そこを起点にいろいろな場所が引っ張られます。袖山は余り、袖下が足りなくなってきます。さらに腕を上げるとアームホールが引っ張られますが、カマ底の位置によって引っ張られる分量が変わってきます。袖口〜カマ底の距離が遠いと、少し腕を上げるだけでもカマ底が引っ張り上げられ、脇線、裾も持ち上げられます。

ビッグシルエットの服はとくにバストが大きい分肩が広く、カマ底の低い袖が多いです。なので、同様に腕を上げると同時にカマ底、脇、裾がもれなく持ち上がる服が多いと思います。以前にもそんなこと書いてます。

実際にはいろいろな要素がからんできます。そして袖丈でもかなり違います。長袖のほうが上がりにくい。

この、「動かしやすさは距離の問題」というのは、腕を上に上げるだけでなく、腕を前に動かすことにも同じことが言えます。

前に動かそうとすると、つっぱる感じがして動かしにくい服があります。下の図の、矢印の部分の距離が足りないから動かしにくい、と仮定します(実際は他の部分や素材、縫製などが原因のこともあるので、あくまで仮定です)。

腕を前に動かしたときにつっぱる位置

そうすると、点線の○の部分が足りなくてつっぱっているのかもしれません。この部分はアームホールと袖の縫い目があります。縫い目があるということは、この部分で足りない分を出すことができます。

このあたりのゆとりのことを「抱き」と言います。このあたりの分量を増やすということは、抱き(分量)を増やすと言ったりします。

アームホールだけ、袖だけ、もしくは両方を修正します。これは、足りない(加味したい)分量にもよりますし、アームホールや袖山の形を見て判断することもあります。トワルを組んでみると、そのトワル自身がどうしたいか教えてくれます。

パターンの修正の例

そして、後のアームホールや袖山だけでなく、前後のバランスも見ます。後のアームホールだけで出すとバランス悪くなるから、袖とアームホールとで振り分けて出す、とか。また、デザインを見て判断することもあります。

腕は前に動かすことのほうが多い、または前への動きのほうが大きいので、後アームホール、後袖山のほうが運動量が多くなります。袖山やアームホールの形も自然とそうなります。 

最終的にはデザインや機能性のバランスを取って、アームホールや袖は決められます。ターゲットの年齢や使う素材によっても変わりますし、身頃の他の部分なら肩線の傾斜やダーツの逃がし分量など、袖なら袖巾や袖口巾でも変わります。

こういうあまり見えない部分は、パタンナーのセンスというか、好みやその人のキャリア(キャリアの長さではない)で変わってきます。ある意味その人の個性が出やすい部分かもしれません。見た目の良さと着やすさは比例しないこともあります。トワルを組んだり(ただ組むだけではだめですが)、サンプルを着用してパターンと比較、検証し、またパターンやトワルに反映させて…ということを意識してしないと、このあたりのセンスを磨くのはなかなか難しいかもしれません。

でも、体をどう動かしたらどこが足りなくなるか、を意識するだけで、パターンの精度が上がります。ファーストサンプルのパターンはわざとこういうふうにしてみよう、なんて実験もできますし、サンプルでこうなってたらこう修整しよう、なんて予測もつきやすくなります。

そしてこれは袖だけの考え方ではありません。つっぱる部分が足りないから出す、という修正の方法はトップスもボトムも関係なくパターンメーキングの基本です。

パターンは1度引いたら終わりではなく、修正をくり返して商品になります。実は修正のほうが大切。シーチングでトワルを組んだって素材によってはサンプルの上がりがトワルとぜんぜん違ってきます。いくらトワルを組んでもこの検証ができなければ上達しません。丈とか、サイズ感のためだけに組むだけではとてももったいないです。

そういえば、パタンナー1年目のころ、トワルを組んでも修正できなくて(修正の仕方がわからなかったので)、よく泣いてました。心の中で。本当にわからないんですよね。だからって2年目、3年目になるとわかるかというとそうでもない。私は7年目くらいでわかってきた気がしたものです。でもすぐに、やっぱりわかってなかった、と思ったりする、それをくり返してきました。今でもわかってませんが、さすがに1年生のころよりはだいぶ成長したと思う。よくがんばりました、私。

 

パターン、絵は参考程度に見てください。ちょっとサイズ感おかしくても気にしないでください。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

パンツについてあれこれ。そしてユニクロのカーブパンツってどうなんだろう。

今回はパンツについて書いてみたいと思います。

みなさんご存知のように、パンツは左右の脚を1本ずつ入れるところがあり、さらに前後のパーツに分かれています。大きくは4つ+ベルトのパーツでできています。

2本の脚の部分が股ぐりの部分でくっつき、1つの胴になります。そして前と後での形がかなり違います。とくにお尻の部分から太ももにかけては、寸法の差が大きく、形も極端に変化します。

そして、体型によりかなり着心地や見た目が変わってくるところでもあります。

なので、股ぐりの部分のパターンが複雑で、とても難しいアイテムです。

 

パンツでは、脚を閉じた状態できれいに見えるようにパターンを作ると、運動量が少なくなり脚を開きにくくなりますし、脚を開いた状態できれいに見えるようにすると、運動量が増え動かしやすくなりますが閉じたときシワが出ます。

スーツのパンツなどでは立った状態できれいに見えるパターンにし、カジュアルなパンツ(ジーンズなども)では運動量を多くするために足を開いた状態できれいに見えるようなパターンの作り方をするのが一般的です。

パンツのパターンの一例

具体的には股ぐりの前後中心の角度、ヒップから上の脇線、ウエストラインにより運動量は変化します。ただし、ダーツやタック分量により中心の角度や脇線は変わります。とくに後はゆとり量によって倒す角度がかなり変わってくるところです。

そして渡りの部分↓。ここもパンツの重要な部分です。はきごこちにかかわるところです。

渡りの位置

渡りの、とくに前後中心から股ぐりの部分の巾、これは体の厚みの部分になります。

体の厚み

股ぐりの長さは股上の高さと渡りの巾で決まってくるのですが、この高さと巾のバランスはけっこう難しいです。ゆとりが足りないとお尻の部分(後股ぐり)が裂けたりします(下の図の部分にも書いています)し、だからといって巾を出しすぎても余ってかっこ悪い。とくに細身のものは難しい。

そして股下部分、とくに後の股ぐりからひざ上までの部分。ここはお尻から太ももにかけて形が大きく変わります。1つの胴から2本の脚に分かれるところなので、当然なのですが。寸法の差もかなりあり、パターンは渡りからカーブを大きく取って、ます。を埋めるため、伸ばしを入れることがほとんどです。

本来はくせ取りと呼ばれる、アイロンのテクニックを使います。短い距離で大きく寸法が変わるところはダーツ処理などで体に沿わせますが、ダーツを入れられない、入れたくない部分、パンツの股下やトップスの後肩、2枚袖の切替線など、アイロンを使って生地を伸ばしたり追い込んだりして立体的な形を作ります。

話はずれますがこのアイロンのテクニック、言葉で書くと数行で終わりますがかなりの技術が必要。できない工場さんもけっこうあるのではないかと思われます。

私はできません。

話は戻って、股下の筒の部分、ここも地味に寸法なんかの設定が難しい。脚は歩いたり走ったり、立ったり座ったりと頻繁に大きな動きをします。ストレッチ素材であればある程度気にしなくてもよかったりしますが、伸びない生地ではゆとりがないとひざを曲げるたびに引っかかります。ひざ巾、裾巾の寸法の設定が意外と難しいんです。

ひざは曲げるところなので、巾がせまいと動きが妨げられるのがわかりやすいですが、裾巾も小さいと座るときなんかに引っかかります。テーパードなど、ひざ巾は余裕があるけど裾が極端にせまくなっているものに多い。これは、図のように足を曲げるとタテ方向の距離が必要になってくるからです(赤線の部分)。

立ったときと座ったときの比較

座るとタテの距離が必要になるため、裾がせり上がります。

ところが裾巾がせまいとふくらはぎで止まったりして上がりにくくなるため、距離が足りなくなって座るときに引っかかります。 

ちなみに上の図でお尻の部分も足りなくなると書いていますが、座るとこのお尻の部分が足りなくなります。しゃがむと後のウエストが下がってパンツ見える…なんてことが起こるのはこのせい。

そし股ぐりの、お尻の部分が裂けたりすることがたまーにありますが、同様にこの部分に力がかかるからですね。勢いよくしゃがんだりするとビリビリいっちゃうことがあります。

そしてひざの裏(緑の〇部分)、座るとここ、生地がくしゃくしゃになりませんか?余るからです。書いてないけど前の足の付け根あたりも座ると余ってしわになりますね。

とにかくパンツって難しい。最近のはやりでギャザーやらタックやらで、巾たっぷりの(しかもウエストゴムの)パンツばっかり作ってたら、細身のパンツなんて作れなくなっちゃいそう。皆さんお気をつけて。

まあトップスでも同じですけどね。細身の作るの、難しいです。

 

最後に、脇線について。

ひざとヒップ、ウエストの差が大きいとカーブが大きくなり、シルエットがなんだかもさっと見えるんです。わかりにくいですね、おばちゃんぽく見えるというかなんというか。

(実は絵にしてみたんですがどうもわかりにくくて、載せるのをやめてしまいました)

なので、私はよく筒の部分を脇に寄せて差を減らし、脇線全体を直線に近く、すっきり見えるようにパターンを作っていました。

でも、最近ユニクロで出てるカーブパンツは、わざと脇線をカーブに見せているようです。

パンツの脇線にカーブを付けるということは、いちばんボリュームの出るところが下に来る(重心が下がる)ので、とくに背の低い人はとても難しいシルエットなんじゃないかと思うのですが、どうなんだろう。美脚を謳っているけど、美脚に見えるのか?着る人を選ぶ、難しいシルエットではないのかな?

確かに履くのは楽ちんそうだし、太ももが張っている人はシルエットでカバーできるみたいなので良いかもしれません。

それに、流行して売れてしまえばそんなの誰も気にしなくなるのかもしれない。ファッションなんてそんなもんです。

まだ試してないので、実際のシルエットもわからないし、今度試着してみようと思います。

 

注:記事中のパターンはいいかげんに作ってます。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 


 

パタンナーを成長させてくれる工場さんのこと。

私がパタンナーになりたてのひよっこのころ、国内の縫製工場と取引がたくさんありました。国内のほうが多いくらいでした。

それからだんだんと中国の工場さんにシフトしていく形で、国内の工場さんとの取引が減り、悲しいことに工場自体潰れてしまったところも見てきました。

そして中国だけでなく、インドやベトナムやバングラデシュなどの工場も珍しくなくなりましたが、当然日本語も通じない、現地に日本人がいたりいなかったりと怪しい状況で海外の工場さんに縫ってもらうことが当たり前になりました。

もちろん海外でもとてもきれいに縫ってくれる工場さんもたくさんあります。中国の工場だと日本語が通じるところが多くて、こちらの希望、ニュアンスもわかってもらえる部分が多い。

でもそうじゃないところもたくさんあります。

最近では国内の工場さんとお付き合いがまったくなかったので、現在の状況がどんな感じなのかまったくわかりません。なので、国内に関しては数年前の印象で書きます。

 

安価な商品を扱う会社に入って、それまでの服の(パターンの)作り方、考え方を変えなければいけなくなりました。

国内の工場で縫ってもらうと気にならなかったことも、海外の工場だと気になったり、変えざるを得ないことが多かったです。同じ中国の工場でも差がありますし、なによりそれまで経験のない国での生産もありましたので。

国内、海外に限らず上手な工場さんと上手じゃない工場さん(なんかすいません)は、同じパターンを使用していても上がりが違います。当然といえば当然です。工賃違いますから。

そして、上手なところ、日本の工場はとくに(たぶんですが)縫いやすいようにパターンを多少変えたりしているのではないかと思います。もちろんデザイン、見た目に支障ない程度、裏側に隠れてわからない部分だと思いますが。その工場さんのノウハウで、生産性や質を上げるためにされているのではないかと思います。

工場によっては、仕様書を見てないのかわからないけど勝手に仕様を変えてきたりされます。そもそもきれいに縫うという気がないんじゃないかと思うような、いい加減な縫い方をされるところもあります。

きれいに縫う気がない、は言い過ぎかもしれません。失礼を承知で書いてます。日本ではほとんどないと思いたい。私が過去知っていた日本の工場さんで、いい加減な縫製をする工場は一つもありませんでした。

海外、私の経験では商社などを通さず工場と直接取引する場合の話です。日本語が通じなければニュアンスを伝えるのもとても難しいし、国民性もあると思いますし、手の良し悪しは工賃に比例するので、それがいい悪いという単純な問題でもありません。きれいな商品が欲しければうまく縫ってくれる、もっと高い工場に持っていけばいいだけの話ですので。

でも値段が合わなければ、上手じゃないけど安い工場で、それなりに縫ってもらえるようこちらが工夫しなければならなくなります。

だから、パターンや仕様や指示方法など、すべてにおいて手をかけるしかありません。もちろんパタンナーだけでなく、デザイナーもMDも生産も営業もです。日本語が通じないなら、英語で指示する必要もあります。

はっきり言ってものすごい手間です。大変です。場合によってはサンプルを作る回数も増えるので、時間もかかります。ストレスもかかります。

 

でも、とてもいいことがあるのです。それは、自分のスキルが上がるということです。

国内や上手な工場さんとばかり付き合っていると、自分のパターンや仕様書に問題があっても気がつかない可能性があります。自分のスキルが多少なくても(ぜんぜんないと難しいと思うけど)きれいに縫ってくれるので、私って仕事できるー!って勘違いするかもしれないです。というか、長くその状態が続くと、確実に勘違いすると思う。工場さんは優しいので(こちらがお客様になるからですね)、よほどでない限り苦言を呈したりしませんし。

海外やコミュニケーションの取りにくい工場さんが相手だと、こちらの意図を伝えるためにいろいろと工夫をします。どうやったら通じるか頭を使い試行錯誤します。人に聞いたり勉強したり客観的にならないといけなくなります。縫いやすいパターンを作るようになるし、仕様書の作り方や文章の書き方も変わります。相手の立場に立って考えるようになります。

これをしていると相手が日本人でもそうじゃなくても、社内の人間でも、職種関係なく、ともすればプライベートでもわかりやすく伝えられるスキルやコミュニケーション能力が身につきます。

すごいと思いません??

本当は社会人として基本的な、当然のことなんですけど、けっこう難しいことなんですよね。とくにパタンナーは技術のほうに目が行きがちで、この辺りないがしろにしている人が少なくない気がする。

 

…と書いてる自分が勘違いしてる!?

これでも私、昔よりけっこう成長したんですけれど、もし伝わってなければすいません…。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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アームホールと袖山について。のつづき。

先日、アームホールと袖について書きました。

なんだか自分の中で中途半端だったので、もう少しアームホールと袖について書きます。

前回アームホールと袖の寸法をわざと合わせていないという内容でしたが、前回の考え方は基本的にアームホールと袖の寸法が同じでかまわないようなデザインやアイテム、カットソーやカジュアルなブラウスの考え方です。

今回は重衣料、特にスーツのジャケットのようなアイテムの考え方についてと、ドロップショルダーについてももう少し書いてみます。

 

セットインは服の肩の位置が実際の体の位置(既製品ではボディなどの肩の位置になる)か、それより内側になります。

昔昔、バブルの頃流行していた肩パットの入ったジャケットなどだと、肩を大きく見せるため肩の位置が多少広めに設定されていたかもしれないですが(私はその頃まだ仕事してなかったので知りません)、現在では必要以上には大きくしないことがほとんどです(デザインでわざと肩を大きく作ったりしているのは別)。

スーツなんかの、かっちりしたジャケットはだいたいがセットインですが、袖のパターンは山を高く作り、アームホールよりも袖山の寸法を大きくして(いせを入れて)袖をふくらませ、袖の据わりを良くします。袖がふっくらとふくらんでいて、しかもそれを保つために芯地を貼ったりゆき綿(たれ綿)を入れたりまでします。2枚袖になっていることが多いです。

袖山のイセの分量が変わると何が変わるかというと…下の図でわかりますでしょうか。

イセの分量で腕がカバーできる袖の厚みが変わる

イセの分量が増えれば増えるほど袖山がふっくらとします。これは、ギャザーを入れることと考え方は同じです。

袖をふっくらさせると厚みの量が増えます。腕の厚みがカバーできるということです。イセが少なければ厚みの分量は減ります。

ですが、いせが多いと縫製は難しくなります。きれいに袖山にイセが入っていてふっくらしているのは、縫製が上手=高い服、かもしれません。生地にもよりますので、一概には言えませんが。

なので、せっかくきれいめを目指してパターンを作っても工場さんの手が伴わない…ということもしばしばです。

自分で作るのも、袖付けは自信ないです。たくさんイセ入れた袖は、縫うのが本当に難しい。

 

ドロップのことも書いておきます。

セットインに対してドロップショルダーは、服の肩の位置が実際の体から外側にずれます。

これもほんの少し肩から落ちている程度のものから、肩からすごく離れたところにあるものまでさまざま。これもビッグシルエットがはやっているからこそのデザインだなー、と思います。

基本的にドロップの場合はセットインのように肩の位置を示すなんて役割も必要もなく、どちらかというとショルダーポイントは目立たないよう、切替のように自然になだらかに見せたいです。

基本的に実際の体の肩から落ちる距離が長ければ長いほど、袖山が低くなるのですが、この肩の落ち具合と袖山の高さが合っていないと、ショルダーポイントに角ができます(他が原因のこともありますが)。

自分が製図したサンプルでガタッてなってるとかっこ悪、と思います。個人的に。すぐに直そと思う。

肩の落ち具合と袖山の高さが合っていないと右のようにガタッとなる

個人的にはドロップは袖というかアームホールのあたりのもたつきと着用する人の実際の肩の位置がポイントだと思っています。

そう、セットインにしてもドロップにしても肩がとても大切だと思っています。肩の位置は太って見えるかどうかの分かれ目になるところですから。

上の右の図では、ガタッとなっているのがかっこ悪いだけじゃなくて、腕のあたりが大きく(太く)見えませんか?

キャップスリーブも同様。肩線とか、アームホールの大きさで実際の肩や腕より大きく見えてしまう。以前かわいいなと思って試着したら自分のサイズより1~2サイズ大きく見えてしまった服がありました。もちろん買ってません。

どちらが小さく見えますか?少しパターンを変えるだけで肩が小さく見えます

あの服、売れたのかな?大きいサイズの人が小さく見えたら、売れると思うけれど。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 


 

 

 

 

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