私、パタンナーです。

「元」パタンナーの目線から服のことを書いています。

生地の裁断方向について。分かっててやるのと分からずにやるのは大違いです。

スポンサーリンク

パタンナーの仕事のひとつに、「生地の裁断の方向と方法を指示する」というものがあります。

サンプル、本生産の仕様書を作る際の仕事のひとつですが、商品の上がり(見た目)に大きく影響を与えるので、とても大事な部分です。ものによりそれだけでかなりの時間がかかることがあります。

今回は生地や柄で違ってくる指示の方法なんかについてを書いてみようと思います。

 

生地には方向があります。まず地の目の方向で、たて、よこ、バイアス(バイヤスということも)とあります。たてというのは生地の耳(端)と平行、よこは耳に対して垂直、バイアスは耳に対して45度の方向の地の目になります。

すべてのパーツのパターンには必ず地の目(矢印)を入れますが、基本的に地の目の矢印は=たて、となります。

それらをふまえて、裁断の方向というのは、服のパーツを差し込んで裁断するか、一方方向のみにするか、一着の中で一方方向に揃える(商品によって方向が変わるのはOK)などがあります。

差し込みは、地の目のたて方向が合っていれば、上下関係なく型紙を配置して裁断しても良いということです。差し込みは生地の用尺(一着にかかるメーター数)がいちばん詰められる裁断の方法です。

一方方向はその名の通り、すべてのパーツを一方方向(上から下、もしくは下から上)に揃えて裁断します。差し込みと逆で、用尺がかかります。

一着の中で方向を同じにする方法は、着内同一方向裁断とか、着別一方方向とか、会社によって?言い方が違いますが、要するに一着の服の中では一方方向になるように(一着の中で差し込みにならないように)裁断、縫製するということです。

通常、本生産で裁断する場合は2人取り以上で裁断することがほとんどだと思われるので、着内同一方向裁断では、差し込みに近い用尺になってくると思う。実際に詳しく工場さんに聞いたことがないですが…。

裁断の方向がどのような条件で変わってくるのか、以下に簡単に書いてみます。

 

差し込み

無地、または柄物でも上下の方向のない、またはわかりにくいもの

 

一方方向裁断

柄物(ジャカードなどの織り柄、先染めの柄、プリント物)などで、上下ひっくり返すと柄の出方が変わってしまうもの。または、毛足のある素材など

 

着別一方方向裁断

上下ひっくり返すと柄が変わってしまうが、一方方向裁断にしなければいけないほど柄が目立たないもの、一方方向裁断にすると取りが悪すぎるものなど

 

この他にも様々条件はあります。ニットは厳密には上下の方向があります。商品の値段などにより変わる場合もあります。

また、ベルベット、シャギーなど毛足のある素材は一方方向になります。毛並みを揃えて裁断します。差し込むと横のパーツとの見え方がぜんぜん違うので注意。

綾織のものはたて方向の差し込みはできますが、バイアスの場合は注意が必要だし、1WAYストレッチの素材は、たて伸びにしたいかよこ伸びにしたいかで地の目を変えたりします。 

 

次に、柄物はどのようなものが差し込みできるかできないか、具体的に例を挙げると…

左:差し込み可  右:差し込み不可

とこんな感じ。微妙な柄ですいません。

ポイントは上下ひっくり返しても柄が同じになるかどうか、または全く同じにならなくても違和感がないかどうか。

大柄なものやパネル柄などは上下ひっくり返すとぜんぜん違うので、一方方向にしかできない。そういうものは用尺がかかって値段も高くなる、ということです。

 

そしてもうひとつ、柄物は「柄合わせ」をしなくてはなりません。これは差し込みできる柄でも必要(特にチェック柄)。

前後中心や左右の袖、はぎのはいるところで柄がずれないように裁断するとか、どこに柄が来るようにするかなどの指示をすることなのですが、柄合わせはパターンによってできるできないがあったりします。どのパーツもすべてきれいに合わせようと思うと、知識も必要ですが、パターン的に妥協しなくてはいけなくなる部分も出てきます。用尺もさらにかかります。もちろん工場さんの労力が半端ないのでコストが上がります。

安い商品のものではコストが厳しいので、柄の方向はちょっと厄介だったりします。チェックやプリント柄が製品の値段に直結するのは上記の通りなので、本来なら使用する生地の柄を選ぶ(作る)時点で上下のない、差し込みできる柄にするのがよい。

生地の選定やプリント柄を組んだりするのはデザインの領域なので、デザイナーやMDに知識があれば、妥協できる範囲で差し込める生地を選ぶことが多い。 パタンナーも工場さんも楽だし安くできるし、みんながハッピーです。デザイナーさんよろしくお願いします!

 

これらは、服飾の専門学校を出て企画の仕事に携わっていれば当然の知識です。仕事をしていなくても服を作る方にはおなじみのことだと思います。見た目ですぐにわかるところなので、パタンナーとしてもとても気を遣うところであり、工場さんなどにも注意をお願いする部分です。

そういえば以前いた会社で、柄物の多い商品を作っていたとき。パターンは作らないのに本生産の仕様書は作っていたのですが、下記の柄のような、先染めチェックの生地の商品の仕様書作りをしたときのこと。この柄は上下ひっくり返すと違った見え方になるので、基本、一方方向裁断、または着別一方になります。

一方柄の例。同じ柄を上下ひっくり返して並べた図

裁断方法の指示をするのに、サンプル→差し込みでしたが、私は本生産は一方方向裁断で指示、のつもりでした。でも柄合わせに迷って、ほかのパタンナーに相談したら、「(こういうチェックの)柄の方向のこと、考えたことなかった(から、ずっと差し込みにしてた)」と衝撃のお言葉。

…たしかに安価な商品、一方で裁断、柄合わせまでしてたら上代上がってしまうかもしれないけど…パタンナーの知識と商品の値段は関係ありませんよ。

ちなみに先染めのチェック、ストライプ柄なんかは、プリントに比べて表裏がわかりにくいです。表裏も間違えると柄が違ってくるので注意が必要です。

 

注:工場さんの立場としては、サンプルまで差し込みだったのに本生産でいきなり一方裁ちはできないということもあります。当然ですよね。差し込みのコストで合わせているのにいきなり一方裁ちとか、工賃合わなくなりますから。

上記の話は商品の見た目をできるだけよくするように、クレームをできるだけ受けないようになど、パタンナーの立場で商品価値をできるだけ上げるためにすることです。

コストに関わるところはデザイナーやMD、生産と相談してフレキシブルに対応します。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

www.pattern-maker.net

www.pattern-maker.net