私、パタンナーです。

「元」パタンナーの目線から服のことを書いています。

アームホールと袖の運動量について。パターンは1度引いたら完成ではありません。

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アームホールの大きさと袖の運動量には、密接な関係があります。もちろん袖山の高さや袖幅なんかも大きくかかわりますが、アームホール自体の大きさが、腕を上げる動きを妨げたりするのです。

袖の運動量についてや、アームホールと袖との関係については、以前にいくつか書いています。

その中でも触れているのですが、どうして運動量が変わるのか、具体的に書いていこうと思います。

 

アームホールとは、身頃の袖ぐりのことです。袖が付く部分。デザインだけでなく、袖の形状によっても形は変わります(でも身頃をきちんと作り込んでアームホールを決めてから袖を作るほうがうまくいきます)。

袖の運動量は、袖が要だと思われるかもしれませんが、実は身頃のほうに問題があって腕が動かしにくいということがとても多いです。

そして、動かしにくい原因のひとつに、カマ底の位置があります。

カマ底とは、アームホールと脇線が交差するあたりの位置で、前後身頃の脇線を突き合わせて形を見ます。お釜の底の形みたいだからカマ底なのかな?これは合ってるかどうか知りません。

カマ底の位置は、デザイン、バストや袖巾などの商品のサイズ感などによって変わります。バストの小さいほうが高い位置に来るのは、身頃のサイズと連動するからです。なので、アウターよりインナーのほうが、布帛よりカットソーのように伸縮性のあるもののほうが位置は高くなります。そして高いほうが袖が上げやすくなります。

ただ「着用する亅だけであれば、アームホールの大きい、カマ底の位置が低いアームホールのほうが、腕や脇に当たらなくて楽な気がしますが、腕を高く上げたり前後に動かしたりするとカマ底の低いものは動かしにくいです。

たとえば、バスト、肩巾の大きさが同じくらいで、カマ底の位置が違うものがあるとします。矢印がそれぞれのカマ底の部分。

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カマ底が、赤が高く、青が低い位置にある

身頃のパターンを比較するとこんな感じでしょうか。

カマ底の位置が違う身頃の比較

そして袖はこんな感じ。赤に比べて青は、アームホールが大きくなるので袖山が高く、袖巾が広くなります。袖口と袖の長さは同じ。だけど袖山の高さが違うので、袖下の長さが違っています。

袖の比較

腕を下げた状態(しわなどが出ない、無理がない状態)でカマ底~袖口の距離を直線で表すと、下の図のようになります。

腕を下げた状態

そして腕を上げるとこのような状態に。点線は上げることにより必要になった長さ。

腕を上げた状態

カマ底〜袖口の距離の問題ですね。腕を上げると袖口が上がり、そこを起点にいろいろな場所が引っ張られます。袖山は余り、袖下が足りなくなってきます。さらに腕を上げるとアームホールが引っ張られますが、カマ底の位置によって引っ張られる分量が変わってきます。袖口〜カマ底の距離が遠いと、少し腕を上げるだけでもカマ底が引っ張り上げられ、脇線、裾も持ち上げられます。

ビッグシルエットの服はとくにバストが大きい分肩が広く、カマ底の低い袖が多いです。なので、同様に腕を上げると同時にカマ底、脇、裾がもれなく持ち上がる服が多いと思います。以前にもそんなこと書いてます。

実際にはいろいろな要素がからんできます。そして袖丈でもかなり違います。長袖のほうが上がりにくい。

この、「動かしやすさは距離の問題」というのは、腕を上に上げるだけでなく、腕を前に動かすことにも同じことが言えます。

前に動かそうとすると、つっぱる感じがして動かしにくい服があります。下の図の、矢印の部分の距離が足りないから動かしにくい、と仮定します(実際は他の部分や素材、縫製などが原因のこともあるので、あくまで仮定です)。

腕を前に動かしたときにつっぱる位置

そうすると、点線の○の部分が足りなくてつっぱっているのかもしれません。この部分はアームホールと袖の縫い目があります。縫い目があるということは、この部分で足りない分を出すことができます。

このあたりのゆとりのことを「抱き」と言います。このあたりの分量を増やすということは、抱き(分量)を増やすと言ったりします。

アームホールだけ、袖だけ、もしくは両方を修正します。これは、足りない(加味したい)分量にもよりますし、アームホールや袖山の形を見て判断することもあります。トワルを組んでみると、そのトワル自身がどうしたいか教えてくれます。

パターンの修正の例

そして、後のアームホールや袖山だけでなく、前後のバランスも見ます。後のアームホールだけで出すとバランス悪くなるから、袖とアームホールとで振り分けて出す、とか。また、デザインを見て判断することもあります。

腕は前に動かすことのほうが多い、または前への動きのほうが大きいので、後アームホール、後袖山のほうが運動量が多くなります。袖山やアームホールの形も自然とそうなります。 

最終的にはデザインや機能性のバランスを取って、アームホールや袖は決められます。ターゲットの年齢や使う素材によっても変わりますし、身頃の他の部分なら肩線の傾斜やダーツの逃がし分量など、袖なら袖巾や袖口巾でも変わります。

こういうあまり見えない部分は、パタンナーのセンスというか、好みやその人のキャリア(キャリアの長さではない)で変わってきます。ある意味その人の個性が出やすい部分かもしれません。見た目の良さと着やすさは比例しないこともあります。トワルを組んだり(ただ組むだけではだめですが)、サンプルを着用してパターンと比較、検証し、またパターンやトワルに反映させて…ということを意識してしないと、このあたりのセンスを磨くのはなかなか難しいかもしれません。

でも、体をどう動かしたらどこが足りなくなるか、を意識するだけで、パターンの精度が上がります。ファーストサンプルのパターンはわざとこういうふうにしてみよう、なんて実験もできますし、サンプルでこうなってたらこう修整しよう、なんて予測もつきやすくなります。

そしてこれは袖だけの考え方ではありません。つっぱる部分が足りないから出す、という修正の方法はトップスもボトムも関係なくパターンメーキングの基本です。

パターンは1度引いたら終わりではなく、修正をくり返して商品になります。実は修正のほうが大切。シーチングでトワルを組んだって素材によってはサンプルの上がりがトワルとぜんぜん違ってきます。いくらトワルを組んでもこの検証ができなければ上達しません。丈とか、サイズ感のためだけに組むだけではとてももったいないです。

そういえば、パタンナー1年目のころ、トワルを組んでも修正できなくて(修正の仕方がわからなかったので)、よく泣いてました。心の中で。本当にわからないんですよね。だからって2年目、3年目になるとわかるかというとそうでもない。私は7年目くらいでわかってきた気がしたものです。でもすぐに、やっぱりわかってなかった、と思ったりする、それをくり返してきました。今でもわかってませんが、さすがに1年生のころよりはだいぶ成長したと思う。よくがんばりました、私。

 

パターン、絵は参考程度に見てください。ちょっとサイズ感おかしくても気にしないでください。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。